健康・医療 ~健康や医療に
携わることを学びたい~
病気の発症メカニズムの解明やそれを改善する機能性食品の開発
寳関 淳 教授
タンパク質の品質管理が健康を支える
タンパク質と聞くと、肉や魚といった栄養素あるいは髪の毛や筋肉の成分といったイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。そういうイメージだとタンパク質は1種類しかないように思うかもしれません。しかし、私たちの体の中では、一つ一つの細胞の中に数万種類のタンパク質が存在しており、それぞれ固有の機能を発揮することで、日々私たちの生命を支えています。タンパク質はアミノ酸がつながってできた1本のひもで、おりたたまれてきちんと形作られることで機能します。タンパク質が必要な機能を果たすために、細胞内でその品質を維持される必要がある一方で、タンパク質には寿命があり、機能を果たさなくなると分解される必要があります。私たちの体の中の細胞は、タンパク質の品質をきちんと管理する機構を有していますが、生活習慣や老化によりその機構が破綻すると、認知症の大部分を占めるアルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病、がんをはじめとする様々な病気の発症原因になると考えられています。私たちは、細胞がタンパク質の品質を管理する仕組みや生活習慣や老化などによりその破綻が引き起こされる仕組みについて研究を行うことで、病気の新しい治療法、医薬品や健康を維持する機能性食品の開発を目指しています。
奥 公秀 准教授
元来備わっている細胞機能を引き出すことで健康を支える
高齢化社会では、老化や神経変性疾患などに対抗して、QOL(生活の質)を上昇させることが求められています。その対抗戦略としては、私たちの体に元来備わっている、細胞をより健康的な状態に回復させる力を「引き出す」ということが、最も自然な方法ではないでしょうか。日本を中心とするこれまでの研究から、細胞内で過剰に蓄積し、有害な作用を示すものを分解して低分子化合物に戻す細胞内リサイクリングのシステムである、オートファジーが詳細に研究されてきました。私たちに身近な食品では、納豆の成分にオートファジーを活性化する働きがあることが分かってきています。私の研究プロジェクトでは、食品として身近な酵母などを対象にして、どんな成分がどのようにオートファジーを活性化するか、その分子メカニズムをきちんと解明することに取り組んでいます。基礎的な研究ですが、学部内の食の専門家の先生たちとのコラボレーションにより、実際に健康増進効果をもたらす新成分を発見することを目指しています。
矢野 善久 教授
食品による健康の維持増進や高齢者医療への応用も
食べることは、生きていくための基本ですね。特に年齢とともに血圧が上がってきたり、血糖値が高くなってきたりするので、それを抑えるための食品の研究をしています。また、これとは別に、亀岡市の高齢者を対象とした運動機能や栄養状況に関する研究も始めています。これには、亀岡市の高齢福祉課の方や国立基盤研究所・健康栄養研究所の先生方とも一緒に共同研究をしていて、高齢者の基礎体力と栄養、さらには最近問題になっているフレイルと、高齢者医療との関係についても検討しています(このような研究をコホート研究と言います)。学内には、「アクティブヘルス支援機構」を総合研究所内に立ち上げて、このような研究のために学部を超えた共同研究も行っています。単に食品にとどまることなく、ヒトを対象にした研究もしていますので、是非一緒に研究しませんか?
日々の食から健康を
藤井 孝夫 教授
ビタミン豊富なお茶はこうしてできる
ビタミンエースという言葉をご存じですか。お茶に豊富に含まれる抗酸化トリオのビタミン A、C、E を表現したものです。ビタミン C は、紅茶や烏龍茶に比べ緑茶に多く含まれ、緑茶の中では煎茶に最も多く含まれています。京都の宇治茶産地では、5 月 GW前後からチャの新芽が収穫され、新芽を蒸して揉み込み、乾燥工程を経て茶に仕上がります。太陽の光を充分に浴びた新芽にビタミン C が豊富に蓄積し、製造工程で酸化酵素を失活させることや、強い抗酸化作用を持つカテキンの存在により、ビタミン C は酸化されずに残り、“健康”という恩恵をもたらす煎茶ができるのです。お茶の研究開発は多岐にわたります。栽培や加工技術、香味や機能性成分研究、新たな商品開発などで、ヘルシーな緑茶を世界的なスーパー飲料にしましょう。
船附 秀行 教授
おいしくてヘルシー!β―グルカンリッチなもち麦
もち麦って、ご存じですか?昨今、メディアなどでも取り上げられる機会が多いので、目や耳にしたことはあるかもしれません。これは、モチ性の大麦のことです。お米にモチとウルチがあるのは、広く知られていますが、麦にもモチ性のものがあるのです。これが今注目を浴びています。1つは、おいしさです。麦ご飯は、お米に 2-3割大麦を混ぜたもので、ヘルシーな印象がありますが、「臭い飯」というイメージも強く、実際食べてみても、ぼそぼそしてたいがいの人の口に合いません。しかし、もち麦で麦ご飯をつくると、もちもちして食感がよくなり、おいしくいただけます。もう1つは健康機能性です。もち麦には、大麦のヘルシーさの源、β―グルカンが、ウルチ性の大麦の約 1.5 倍も含まれているのです。β―グルカンは水溶性の食物繊維で、血中コレステロールの低減効果や、食後の血糖値上昇の抑制効果があるとされています。そして、自分ですぐ実感できるのは、お通じの改善です(※個人の感想です。効果には個人差があります(^_^))。私たちの研究室では、実際にもち麦を栽培し、β―グルカンを多くする栽培法や、パンなどへの利用法に関する研究をしています。
井口 博之 准教授
藍って食べられるの?
深い青色の液で繊維を染める藍染め。今や日本の伝統産業となり、製品は高級品になっています。しかし江戸時代には、藍染めは庶民が日常に使う手法でした。藍は抗菌・防臭・繊維丈夫化の効果を与えると、また「勝ち色」として縁起よいと好まれてきました。さらに、藍は薬にも。なんと藍染め液を内用していたそうです。また藍染め液の原料となるタデアイという植物の葉や種子にも薬効があり、6 世紀の中国の書物にすでに記されています。そして近年の化学分析によって、抗酸化・抗菌・抗炎症・抗がん作用を持つ化合物がタデアイに含まれることが明らかになってきています。亀岡で藍染めを行う事業者と共に、藍を使った食品の商品開発を進めています。我々大学側に求められているのは、科学的アプローチと若い学生のセンスです。まず藍の成分を余すことなく摂取できるよう、タデアイを抹茶状に加工した「藍茶」を開発しました。化学分析により、葉を煮出した茶よりも 2 倍以上の成分を摂取できることを示しました。さらに地元の菓子店に協力をおねがいし、この藍茶を使ってマドレーヌ、ラングドシャ、チョコレート、のど飴と共同開発・販売を行ってきました。現在は、味や成分量が向上するような栽培・加工方法を研究しながら、藍ブームを起こせるような商品を生み出したいと考えを巡らせています。