2月28日、本学 京都企業研究センター主催し、第3回目となる「京都企業とそれを支えるエコシステムについての研究会」を京都太秦キャンパスで開催しました。
第1部:研究発表とディスカッション
「アメーバ経営と新規事業育成をめぐる考察」(今崎常秀先生)
最初の発表では、京セラ創業者・稲盛和夫氏が提唱した「アメーバ経営」と新規事業育成の関係性について考察が行われました。アメーバ経営は、小さな集団単位での独立採算制を基本とし、各ユニットが自ら計画を立て、採算意識を持って運営することが特徴です。
発表のポイント
新規事業との親和性:現場に裁量があるため、新しいことに挑戦しやすい
リーダーの役割:単なる会計システムの導入だけでは不十分で、長期的視点と構想力を持つリーダーの存在が不可欠
組織の持続性:赤字の段階にある「赤子アメーバ」を支える仕組みの重要性
質疑応答より
・「アメーバが大きくなりすぎると、小集団のメリットが失われるのではないか」との問いに対しては、「小集団だからこそ迅速な意思決定ができ、新規事業との相性も高い」との見解が示されました。
・また、「なぜアメーバである必要があるのか」との質問には、「構想から実行までを現場で担える点が、他の管理会計手法との決定的な違いである」との説明がありました。
「京都の“起業家エコシステム”発展の歴史」(稲田昂弘先生)
続いての発表では、京都における起業家精神の形成過程とその背景について、過去のスタートアップ事例や経営者インタビューの分析を通して報告がありました。かつて京都には、文化・技術・人材など多様なリソースを活かして、独自の起業文化が根付いていました。
発表のポイント
スター起業家を生み出す仕組みやネットワークの存在
ユニークな中小企業が集積する「ローカル経営」の強み
それらをつなぐ役割を果たしていた経済団体や交流会
現在は、これらのつながりが弱まりつつあり、起業家コミュニティを再び活性化するための仕組みづくりが課題とされています。
第2部:パネルディスカッション (山内康敬先生、辻恒人先生、矢野貴文先生)
第2部では、大学関係者、報道関係者、現役起業家を招いてのパネルディスカッションが行われました。京都における起業の実態や今後の可能性について、多面的な意見が交わされました。
主な論点
起業家のネットワーク:かつてはカリスマ的な起業家が存在し、互いに支援し合う文化があった。現在はそのつながりがやや希薄になっている
起業分野の変化:近年のスタートアップはWeb・IT系が中心で、製造業による起業はコストや時間の面でハードルが高くなっている
今後の成長領域:インフレに対応できるサービスや、継続して収益を上げられるビジネスモデルが注目されている中、特に、金融やECなどの成長が見込める
人材の課題:優秀な学生がいても、東京や外資系企業に流れてしまい、地元に人材が定着しにくい現状を打開するためには、地域に根ざした魅力あるキャリアパスの提示が必要
質疑応答より
・「京都は学生の街であるにもかかわらず、なぜ人材が不足しているのか」との質問に対しては、「多くの学生が東京をはじめとする首都圏へ流出しており、特にビジネス分野の人材が地元に定着しにくい現状がある」との意見がありました。
・また、「現在も起業家同士のつながりはあるのか」という問いには、「集まりは存在するものの、かつてのような強いつながりや影響力は薄れてきている」との指摘がなされました。
本研究会では、京都企業とそれを取り巻くエコシステムという二つの視点から、組織の成長と地域経済の持続可能性について議論が行われました。京都という土地の特性を活かしつつ、新たなビジネスの芽を育てていくには、制度や仕組みだけでなく、人材やネットワークといった「目に見えない資産」の再構築が重要であることが、改めて確認されました。 今後も京都企業研究センターは、産学官の連携を深めながら、地域の可能性を広げる活動を続けます。
(経営学科 鈴木貴之 准教授・稲田昂弘 准教授)